手をつないで、踊り明かそう

ポルカダイアリー

井の中の蛙マスクを外さず

念願叶って集まれた友達グループがある。

「飲酒が解禁になったのでオンラインで飲み会をしませんか」と誘ったところ、メンバーの一人が折しも遠方から帰省してきているというのでリアルで会うことになったのだ。

 

自分が出かけるからといって子の1日が変えられるわけじゃない。

留守番をしてくれる夫とは前日までにスケジュールの打ち合わせをし、あらかじめ昼食やおやつのセッティングをした。当日は仕事を早めに切り上げてくれた夫とバトンタッチして、間に合うようなんとか家を飛び出した。この時点ですっぴんである。

昨夜は夜泣きがきつかったため、着くまでに自分の眠気に任せて少し眠れて嬉しかった。

 

集まりはすごく楽しかった。友達同士で会って食べて飲んで、最高だった。

だけど、自分としては「頑張って行った」感を抱えてしまったのがよくなかったのかもしれない。独身、あるいはパパの友達とは、その感覚を根本のところで分かり合えていないように感じてしまった。

これは完璧に自分が不注意であった案件だが、財布に多めに現金を用意しておくのを忘れてしまった。割り勘の際に自分がクレジットカードで決済することで対応してもらったのだが、「現金を持ち歩かない主義なんだね」という風に言われた。

というか。現金を手に入れるのが困難なんだよ。「ATMに行く」というその行動一つを日常に加えることがどれほど大変か、という。だから銀行に滅多に行けてない。お金を使うのはいつものスーパーとドラッグストアがせいぜいで、提携クレジットカードとd払いで決済できるところ以外に店に行かないんだ。自分の行動範囲って狭いんだなって今自覚したよと笑ったが、あまりピンと来てもらえなかった。

映画館で観た映画の話の時に、これは友人たちと語り合いたいと挙げたタイトルは「かなり前だね、3年前じゃん」と一蹴されてしまった。この街に来るのも産前に集まったきりだと言うと、そんなに前かと驚かれた。知らない間にみんな新しい習い事を始めていた。自分だけ季節に合った格好をしていなかった。

 

もっと労ってほしかったのかもしれない。今日は頑張って来てくれてありがとう、とでも言ってもらえると無意識に期待していたのかもしれない。

「子どもと居ると毎日こんなに大変だよ」と言葉を尽くしてみたところで、未体験の壁の向こうに届いた手応えは得られなくて、むなしかった。

それどころか周りから浮いてて、自分だけ置いて行かれてて。

妊娠出産育児で人生が停滞しているうちに、当たり前なんだけど他の人たちは滑らかに時に乗っていたらしい。

「ママ」を始めてからの時が断絶しているみたい、と思った。

流行遅れの季節外れ。自分がとてつもなく惨めになった。

 

 

そんな気持ちを抱えていた食事中、もう一つ自分が世界と隔絶していると感じた出来事があった。

 

ふと、隣のテーブルに目を留めるとマダムたちが快活に、マスクをせずにお喋りをしていた。

そのまま見遣ると、そのまた向こうのテーブルの人も、マスクをしていなかった。

あれ、もしかして…と店内を見回すと、マスクをしているお客さんは一人もいなかったのだった。

おそるおそる確認したところ、いつのまにか友人たちも、マスクをしていなかった。

店員さんとわたしだけが”未だ”マスクをしている、と気付いた時の、緊張。

酔いがすっと覚めて、この街で異質な存在になっている今の自分をしかと感じた。

 

「あれ、いつのまにわたしだけマスクじゃーん!」と笑って言うことはできなかった。

だって、その台詞を言ったらマスクをしていることが自覚的になる。それでも外さないなら、主義になる。

でも、友人たちの前では「うっかりマスクを外しそびれている人」のままで居たかったのだ。

「マスク外さない主義の人」だとも、「時代遅れの頑固者」だとも思われたくなかったんだろうと、後から振り返ってそう思う。

 

それでもわたしは、今はまだマスクを外す心の準備はできていない。

 

自分の暮らす田舎町では、特に子ども関連の場所しか行かないこの生活では、マスク着用緩和の報は自分たちになんの関係もない号令だった。

だけどこんなにも、そうか、別世界とは。

というか、わたしが居る場所が、井の中だったんだ。

 

自分を貫こうと、覚悟をもって決め抜いたわけでもないのに「変な人」になってしまった自分を友人たちはどう見ただろうか。

わたしは変わってしまったのか。というか変わる周囲についていけていないことで、相対的に変人になってしまった。

子を産んだから?警戒しすぎているから?まわりに合わせる感覚を失ってしまっているから?社会から外れた蛙だから?

 

すごく淋しくなって飛んで帰った。

わたしの居場所はもう、子と夫のそばにしか、ない。そう悲観した春の飲み会。