手をつないで、踊り明かそう

ポルカダイアリー

川向こう、青空と緑濃い山を臨むカフェ

「日曜日、一人でご飯食べてき」と、夫が言ってくれたのは金曜日のことだった。

見るに見かねたのだろうか。自分ではそんなに切羽詰まっているつもりはなかったが、彼からしたらここらでそろそろ息抜きさせておいた方が良さそうだと思わせる言動をしていたのかもしれない。

 

一人でランチ。子どもと離れて何処にでも行ける。

自分で申し出たことではなかったからか、何故か手放しでは喜べなかった。不要不急の休養には、自身が不要なのではないかとの不安がつきまとう。

特段行きたいところもなかったが、頑なに断ると余計に夫を疲れさせてしまう。

空いた1日を使いGoogle Mapでなんとか隣町に新しいカフェを見つけ、そこで昼食をとることにした。

 

 

当日は、まず図書館に本を返しに行った。

いつもは子どもをベビーカーに乗せ散歩がてらに寄る場所だ。散歩に使える目的を消化してしまうのが勿体ない気がしたが、機を逃すと返却期限に影響するので仕方がない。いくつかの本を返して、絵本を借りた。

『薬屋のひとりごと』シリーズを原作で読み進めているが、返した巻以外は全て貸出中だった。夏休みだからかな、となんとなく思った。

 

時刻は11時過ぎ。お昼に合わせて、本日の目的であるカフェを目指す。

約15分程のドライブ。背中で子どもの様子を伺わない、一人きりの車中。

「あ、カーステレオの音量を上げていいんだ」と気付いて、ぐっと上げた。

その瞬間。居ないことは分かってるのに反射的に後ろを気にしてしまって、「いや居ないんだよ、だから音上げたんだよ」と自分に突っ込む。

いつも行動を共にする我が子。しっかりと不在を感じて、なんだか寂しくなってしまった。

 

うきうき、しない。

身軽が嬉しくない。そんな日だった。

 

 

到着したカフェは素晴らしい立地だった。

開けた川沿いの土手に、真新しい綺麗な建物がぽつんと一軒建っていた。緑の濃い山が川向こうにそびえ立っていて、夏空とのコントラストが見事だった。こういうのを求めていた、と感じる空気が流れていた。

他にお客さんはおらず、店内に流れているFMラジオでゲストのブラマヨが話すのを聞きながら過ごした。お好きな席をどこでも選べたが、大きな窓の向こうを正面から臨める場所に座席は無く、残念だった。

ランチセットはメイン料理とパン、スープの種類を選べた。ローズマリー風味のチキンソテーは「これ何処かで食べたことのある味だな…」とずっと考えていたが、食べ終わる頃に「機内食だ!」と閃いた。が、気付かない方がよかった気もした。

最後まで客は自分一人だけだった。お会計の声をかけると、店主らしき人はスマホをいじる手を止めてレジに立った。ペイペイで支払ったが、ルーレットは外れた。

出口の扉の開け方が分からずちょっと戸惑った。さっき図書館で、大きなガラス窓を出口と間違えたおじいさんがゴツンと頭をぶつけているのを見てしまって気の毒だったが、自分も似たようなシチュエーションになっているな、と少し面白かった。

 

店を出ると、ちょうど正午だった。お昼を知らせる音が街に響き渡っていた。

強い日差し。むわっとした夏の空気。雑然と伸びた草や勢いよく葉を広げる樹木に生命力を感じた。

もう一度ここには来ないかもしれないけど、今日ここに来られたのはよかった、と思った。

 

 

帰り道、ずっと気にかかっていた給油に寄った。

よく行くセルフのガソリンスタンドなのだが、店員さんが声をかけてくれてポイントカードを作らないかとのこと。無料で会員割引してもらえるならしておくに越したことはない。

こういうのは、向こうからどうぞという時に行動を起こすのが吉だ。後日、店員さんを探して事務所に行ったりするのはハードルが高い。

 

ポイントカードを作り、ウルトラマンのキャンペーングッズをもらった。

さっそく割引を使った給油の仕方を教えてもらっている時に「そういえばいつも割引のQRコードを持っているか尋ねてくる画面があるが、それは何処で手に入れるものなんですか」と雑談がてら訊いてみた。

返答としては「アプリも入れてもらえたらそこに配信される時があって、重複で割引されるよ」というもので「今すぐ入れればこの給油も割引できます」という言葉に惹かれ、この機に一気に環境を整えてしまうことにした。

今月は何処にも外出していないのでデータ通信量に余裕がある。Wi-Fiを通さずアプリをダウンロードしても平気そうだ。

そして何より、子どもが車に乗っていない。エンジンを止めっぱなしにしていても暑さに苦しむ子がいないし、泣きもしない。急かされないと、余裕があると、余分なことができるんだな。

 

個人情報の入力や仮登録メールなどしばし時間がかかったが、店員さんは感じがよかった。

場つなぎに子どもの話題が出ない。当たり前だ。でも久しぶりだ。今日は子どもを連れていないから、わたしが子持ちであることすら見て分かるわけがない。

自分の違う一面を思い出させてもらったようで、内心、なんだか不思議だった。

 

無事にポイントカード作成とアプリ登録を済ませ、給油を終えた。レシートによると、合わせて単価9円も値引きされていた。

楽天ポイント、それも今月末までの期間限定ポイントで支払いし、更に腕いっぱいの粗品として大量の除菌シートやら箱ティッシュやらアルミホイルやらも頂戴し、最高に気持ちよくガソリンスタンドを出た。

 

 

最後に、普段使いの最寄りではなく大きい方のスーパーに寄り、食料品を買い出して帰った。

買いすぎたためセルフレジで手間取ったが、ふと何の気なしに画面上で貯まっているWAONポイントを確認すると、支払額とほぼ同額だった。クレカと合わせて支払って、現金を使わずに帰宅した。

 

少しだけオシャレして、普段の行動範囲を超えた日だった。

寂しさや浮かなさは結局拭えないままだったから、リフレッシュになったかというと正直そうでもない。

だけど、もしかしたら折に触れ、あの川沿いのカフェを思い出すのかもしれないという予感はしている。

ハズレのお出かけも、できるって豊かだな。