手をつないで、踊り明かそう

ポルカダイアリー

病院へ行こう

頭囲が大きめな我が子。

市の保健師面談で定期的に測定してもらっていたが、いっこうに成長曲線内に収まらない。ついに、病院でお医者さんに診てもらうことを勧められた。

心配な症状が出ているわけではない。発達も問題なし。

しかし、保健師さんとしては「念のため受診をお勧めせざるを得ない数値」とのことで、わかる。立場上ね。

 

急ぐもんでもなし、夫の平日休みに合わせて受診予定日を決めた。

近くの総合病院。所見だけでなくCTも撮る流れになるなら、かかりつけの小さなクリニックではない方がいいだろうとの判断。予約は不要。

混雑を避けるため朝一番に行こうと思うと、普段よりきびきびと朝の支度をこなさなくてはならなくなる。先に病院に行って受付を済ませる人/朝食を食べさせる・オムツ替え・着替えを済ませて病院に連れてくる人の二手に分かれるスケジュールを組んだ。

 

いざ当日。張り切って受付時間少し前に到着すると、なんと本日小児科休診。

「こういうことがあるのでね、電話してから来てください」としきりに注意されたが、いや、ないだろ。あったが。

明日は、と訊ねると「電話してから来てください」。それでいいのか公立病院。

 

すっかり病院の気持ちが高まっていたので、かかりつけのクリニックに行くか…と思い直した。さっきの言葉が刺さっていたのであらかじめ電話してみると「診れるけど、大きい病院行った方がいいと思うよ」とのお返事。やっぱりね。わたしもそう思います。だって、また紹介状書いて大病院行くことになるより手っ取り早いものね。

それではと3軒目、別の総合病院に電話してみたら、お電話が大変混みあっておりお繋ぎできません。あぁ医療逼迫…。

もういやになって諦めた。その日は。きっと医師がコロナ感染しちゃったんだよ大変だね、なんて勝手に内情を作り上げて。

 

 

そして翌朝。

駄目元というか、無理なら無理で全然いいや、くらいの軽い気持ちで当初の病院に電話してみた。

「小児科を初診で受診したいのですが、今日は診察はやってますでしょうか」

「お待ちくださいね」

 ・・・

「お待たせしました、はい、診察しております」やっとんのかい!

バタバタと準備して出発、受付。無事に1番手をとれた。

 

子どもも先生もまだ来ていない診察時間前、看護師さんと科受付の人とわたしで雑談していた。

看護師さん「そういえば、うちの身内が昨日子ども連れてここ来ようとして、なんか嫌な予感してHP見たけどなんも載ってなかったらしくて~」

わたし「あ!そう!うちも昨日一回来たんですよ」

看護師さん「あら!ごめんなさいね!先生、夏休みとれてなくて、8月でとらないといけないのにまだだったから、ちょこちょことってて!」

わはは!なんと臨時休診の理由は先生の夏休みでした!なんと和やかなことか!

それでいいのか総合病院。救急医療に不安をおぼえる。

 

 

さて、無事に子どもも夫も先生もやってきて、診療が始まった。

夫と交代しようと思ったが、そのままお2人でいいですよとのことで夫婦で診察室に入らせてもらった。

 

中に入ると、実に小児科っぽい!

先生は某キャラクターのシャツを着ていらっしゃる!

独立した小児科病院ではなく総合病院内だから、先生はさぞかし院内で目立つだろうなぁと思った。

 

病院を察知し泣く我が子。ベッドに座らせたり寝かせたり、頭囲も測っている間、泣き通し。

「気になる症状もないけれど、確実に何もないと言うためにCTを撮れますがどうしますか。このあとすぐ撮れるはずです。被ばくリスクはありますが、一度きりなのでそこまでではないと思います」

先生からの言葉。被ばくという単語の重さに、一瞬ひるんだ。

しかしここで撮らないとなんの意味もない。夫婦で目を合わせ頷き合う。お願いします。

分かってはいたけど親って、子どもについてひとつひとつ責任を負わなくてはならないな。

 

 

看護師さんに誘導されて、CT室の前まで来た。

座って待っているとCT室の扉が開いた。そこそこ離れているのに、中の人たちの会話が丸聞こえ。

「何もないんか」「電話しましたよ」「じゃなくて策」「お任せしますって」「こっちでやれってことね」

えっと、うちの子のことで揉めてますね…赤ちゃんの撮影方法を小児科が技師さんに丸投げした的なことで…。

そこで、待つわたし達に目を留めた技師さん達。「お父さんおるやん」聞こえてます。

結局、父親が抑える係に任命されて(決定過程が駄々洩れだったが)子どもを抱えてCT室に入っていった。

 

扉が閉まるや否や、すごい声で泣き出す我が子。声に感情が乗りに乗りまくっている。

こわいイヤだやめてが伝わる泣き声。つらくて聞いていられない。

気を逸らしたくてつい、うろうろしてしまった。掲示物を眺めたり、きょろきょろしたり。

「お母さんは入らなくていいですよ」と止められた声が脳内でリフレインする。なんて無力なんだ、母親。ってか、わたし。

 

そこに小児科の先生が走ってやってきた。撮影室と揉めたからか?

通りすがり、わたしを見つけて「抑えつけてるから怒っちゃってるけど、大丈夫ですよ」と声をかけてくれた。

相変わらずの怒り混じりのすさまじい泣き声は終わらない。状況は好転しない。だけど、少しだけほっとした。

カラフルなキャラクター総柄ドクターウェア。やっぱり、院内だと目立つなぁ。

 

 

結論からいうと、やっぱりなんでもない「頭が大きい」個性の子、だった。

上から横から輪切りにされた画像を丁寧に見せてもらったが、気になる異常なし。

子どもの脳みそ写真をこうやって見ることがあるんだな、親は。と妙な感慨を覚えた。

また1才過ぎたら診せに来てもらえますか、と年末の予約をとってくれた。

12月、その時にはもう、この世に生まれて1年が経とうとしているのか。その証明のような予約票を、母子手帳と共に大切にしまった。

 

「他に気になることはありますか?」と訊いてくれるお医者さんは、いいお医者さんだ。産婦人科でもその一言が欲しかったんだ、と今更ながら分かった。

 

腕にある青いのはなんですか?生まれつきなら異所性の蒙古斑ですね。

ここの肌荒れが治らなくて。湿疹ですね、お薬出しておきましょうか?

 

頭囲の件では、心配性の新米パパママが医療のお手を煩わさせてしまうという結果に他ならなかったが、その他の相談もできたことで、ずっと抱えていた小さな心配も解消できて、よかった。

「この程度のこと」と鼻で笑われない。って、お医者さんに求める最低ラインだけど、意外と高いハードルだ。予防線を張って「こんなことで相談してすみません、分かってるんですが」ってへりくだる処世術をいつしか覚えてしまった。

だけど、この先生は丁寧で、気兼ねがいらない雰囲気だった。看護師さんもニコニコと笑ってくれて、風邪症状の患者さんと隔離までしてくれて、落ち着けた。

またこの病院で診てもらいたい。

頼りたいと思える場所が一つ増えて、心強さを感じた。

 

 

ところで、予防接種以外で子どもが病院にかかるのは初めてだったのだけど、乳幼児医療証で本当に医療費が無料だった。

初診料や検査費、医薬品も無料。とはいえどこかでお金がかかるものだろうと構えていたので、お財布を出さずに帰れることにビックリした。すごい。ありがたい。

自治体によって助成に差があるので、これは18歳まで医療費無料の地域に住みたくなるのも当然だと納得した。そんなに違うものかね、と思っていたが、心的負担が違う。

保育や教育、このご時世で幼い子どもたちのために確実に用意されているものってなんにも無いけれど、少なくとも医療に関してはこの先何年も見通しがいい。それって、親にとっても未来が明るい。

困った時は頼っていいんだな。わたしたち親子は、この世界に。

明るい感触の、はじめての病院受診だった。