手をつないで、踊り明かそう

ポルカダイアリー

11時のスパムおにぎり

ようやく食べられた。スパムおにぎり!

 

あれは何月のことだっただろう。冬生まれの子どもをベビーカーに乗せて散歩し始めて間もなくのことだったように思うから、とにかく春だ。もしかしたらこの日記にも書いたかもしれない。(書いてなかった)(書きかけて下書きに入っていた)

月に何度か出店しない沖縄料理屋さんに、春のその日以来ようやくまた遭遇できたのだ。

 

 

あの日は確か、孤独感からいつものように近所をうろついていて、ふと気になっていたその店の前を通ってみたら明るく声をかけてもらったのだった。

しかし昼を過ぎていて商品は売り切れ、「また出すから来てね」と案内をもらった。

家に持ち帰ったチラシを見ると、ソーキそばやスパムおにぎりがあるらしい。

インスタをフォローしてスケジュールをチェック、次の機会を楽しみに待った。

 

しかし、それから4ヶ月は経っただろうか。

出店日をチェックし損ねていたり、行くと決めていた日に出店キャンセルになったり、今日が何曜日か勘違いしていたり、子どもがお昼寝するタイミングが合わなかったりとそれはもう予定が合わなかった。

募るスパムおにぎりへの思い。いっそスーパーでスパム缶を買ってしまおうかと思ったが、いや、そういうことじゃないんだよな、と我慢する。

このようなじりじりと進まない日々を経ての今日である。

 

 

実のところ、本日も出店日であることを気付いていなかった。

午前中、眠気のあまりぐずりにぐずった我が子。朝寝をさせようとあの手この手を尽くしたが、最初はうとうとしていたはずが何故か覚醒してしまい、でも寝るタイミングを逃すと余計に後で寝られず大泣きするので困り切っていた。

こういう時は、最終手段の散歩である。

 

おそるおそる天気と暑さをうかがうと、雲交じりで風が吹き、太陽がてっぺんに向かおうとする時刻にしては涼しい方だったのでベビーカーを用意。

準備をしている間に子は機嫌を損ねてまたぐずぐずし始めている。

着の身着のまま何も持たずに、子どもだけを抱えてやけくそのように出発しかけた時、待てよ、とふと気付く。

この曜日、もしかしたら…。さっとスマホでインスタを開く。

ビンゴ!今日だった。

しかも、開店は11時。まさに今、その時である。

 

あてどもない、生産性もない、ただ子どもを寝かせるためだけの近所の徘徊が、憧れの店で昼飯を買うという目的を持った瞬間である。

 

かくして、わたしはスパムおにぎりを手に入れた。テイクアウトで、2つ。

嬉しい。一つのサイドストーリーが完結したような気がした。

 

店内でソーキそばをいただくことにも惹かれたのだが、ベビーカーでうとうとしていた子どもが薄暗い屋内に入った途端に泣いてしまったので(最近、よくある。散歩途中のコンビニもNGになったので過酷だ)、今回は当初の目的スパムおにぎりのみに集中することにした。

お店で座って食べるあったかいソーキそばは次の目標にしよう。

これでまだ、物語は続く。それもなんだか、嬉しい。

 

 

スパムおにぎりといえば、そう。

 

20代の頃、友人グループで沖縄旅行に行った。

到着した那覇空港のコンビニで「とりあえず名物ひとつ目!」とノリで買ってみんなで食べたスパムおにぎりがそれはそれは美味しかった。

一気に好物になったが、あの時の味を超えるスパムおにぎりにはその後出会っていない。

ありふれていて、きっと特別でもなんでもない大量生産品であっただろう、スパムおにぎり。眩しかった青春時代の記憶と相まって、今は無性に懐かしい。

 

最高に美味しいスパムおにぎりは更新されなくてもそれでいいんだと思う。

折に触れて味に触れて、自分の中にある思い出を呼び起こしていければ。きっと、ただそれで。