手をつないで、踊り明かそう

ポルカダイアリー

これは勝ち確のパワーアップイベントだから

息子が風邪を引いた。

 

最初は、軽い鼻詰まりだった。注意して過ごしていたがその日の夕方にだんだんと具合が悪くなり、夜には熱を出した。

生まれてからこれまで健康体そのものだったため、これが初めての熱。子どもにとっても、親にとっても、戸惑いが大きくておろおろした。

 

パパと3人、枕を並べて就寝するも、だいたい30分に1回、早い時には15分で苦しそうに目を覚ます。1時間続けて寝られると良いほう。抱き上げて、ゆらゆらとしてあげるとすっと寝付けるが、電気を消したり睡眠BGMが止まったりすると、また泣く。要は、眠りが浅いのである。かわいそうでたまらなかった。

不思議なもので、親の自分は深く眠れた。泣き声で起こされた時に「しっかり寝たな、すっきり。どれくらい寝たんだろう」と記録を見るとなんと15分しか経っていないのには驚いた。普段よりずっと細切れなのに、日々の夜泣きよりも眠くなかった。緊急事態だからだろうか。妙な身体の機能があるものだと思った。

夜中の1時ごろだったか、熱を測るまでもなく抱っこする全身が熱くなりかなりハラハラもしたが、朝方5時頃には落ち着いてきた。荒かった寝息も穏やかになり、ほっとひと安心のなか朝日を迎えることができた。

 

その後、鼻水を出したりそのせいで寝つきが悪かったりを繰り返しながらも、ごきげんよくおうちで過ごしている。

たった一晩、それもつぶさに見ているとほんの数時間の発熱で風邪ウイルスを退治した息子、すごいよ、えらいよ。ちっちゃな身体の、更にちっちゃな攻撃部隊。がんばってるんだね、と胸を打たれた。

しかし今回の敵が弱小だったのは幸運にすぎないだろうし、今後もっと手ごわい体調不良に見舞われることも避けられるわけもなく、一人の人間を育てていく以上は母としてどっしり腹をくくらないとなと思う。

いわば予行練習のようなものだったのだろう。大きな困難の心構えをさせてくれたのだと今は前向きにとらえている。

 

 

風邪ウイルスと書いたが、お医者さんの診断を受けたわけではないのでこれが風邪なのか正確なところは分からない。

病院に連れて行くか、非常に悩んだ。まずは少し経過を見てから…と考えたが、熱を出して明けた朝は土曜日だったのである。これでもし、病院の開いていない日曜日に症状が重くなったら…と想定は悪いほうへよぎる。

当然、最悪の場合の当番診療や緊急ダイヤルも手元において確認しつつ、土曜日の午前に通常診療に駆け込んでおくべきかギリギリまで悩んだ。

 

でも、様子を見て、わたしが決めた。

「母の勘は当たるから、おかしいと思ったら病院へ」というのはよく聞くフレーズだけど、その言葉を踏まえて、母の勘で大丈夫そうだと判断した。

 

熱がひいたあとの日中の息子は元気いっぱい、抱っこも必要とせずごきげんで一人遊びができていた。

ご飯もパクパク食べて、水分もとれていた。

6ヶ月以下の子はすぐ病院へ、などのチェックリストには当てはまらない。

もしかしたらまた夕方には熱を出すのかもしれないと思ったが、それでも、昨夜のような容体ならなんとかやり過ごせると考えた。

病院に連れて行くことで消耗する体力や、もらってくる別の病気の方がこわかった。

 

心配させるだけだとは理解していたが、離れて暮らす実家の母にも電話で相談した。

母も同意見で、慌てて病院に連れて行くよりも休養させたら?と言う。

その「休養」というワードがすとんと腹に落ちて、それもひとつのお薬だよな、と心が軽くなったので家で過ごさせた。

 

結果的にはそれで良かったし、不安は単なる自分の自信の無さだった。

後から思ったのは、自己責任の心細さで「子どもの初めての熱なのに軽く見て、経験もないのにわたしなんかが自己判断していいのか」という架空の責めだったんだな、と気付いた。

子のために何もしない、という消極的な判断は勇気がいることだと改めて知った。

 

自分と兄という2人の子どもを育て上げた母は頼りになったし、判断を後押ししてくれて安心した。こういう時に、わたしは実母に頼るんだなというのも発見だった。

「2,3日熱が出ててもどうってことない」と迷いなく言ってくれた母の境地にわたしもいつか至れるのか。経験を重ねて、風邪で動じない強い母になりたいものである。

 

 

さて、熱を出したのは生後9ヶ月最後の日。そして熱が高くなり、平熱に下がったのは生後10か月の朝であった。

父親と2人、子どもを抱きながら「10ヶ月おめでとう」と声をかけた。

子育ての風景として、あの朝を忘れないだろうと思う。

 

初めての発熱というピンチを迎え、それを乗り越えるのが月齢バースデーの当日だなんて、我が子ながらとっても主人公体質である。

だんだん熱が上がっていく息子をなかなか寝かしつけられず不安に包まれながら、夫婦で「これはゲームのパワーアップイベントだから、いったんピンチになるけど勝ち確のやつだから」と冗談で気を和ませ合った。

その通り、免疫を一つ獲得して息子はレベルアップした。

別の敵にも、もっと強いボスにも、立ち向かう力をつけていくのだろう。

武器はある。防具もある。なにより味方がいる。わたしたちは共に立ち向かう、仲間だ。