今宵の月はベランダから見えない。だけど、外に出たら見える、と言う。
「お外に見に行こうか」
夫が子供に言った。
耳を疑った。
11月の日はとうに落ちて寒く、いつもならそろそろお風呂に入れてばたばたと寝る支度…という時間だ。
今から?もう19時前なのに?寒いのに?10ヶ月の子どもと天体観測?
抗議が頭をよぎる。
だけど、夫のこんなそわそわは珍しかった。
天体が好きで、月を専門にしていたこともある彼。
能動的に何かをやろうということすら珍しい、そんな性格の人。
考えてみれば、昼寝はたっぷりした。夕飯はいつもより遅く、しかもいっぱい食べた。それにまだ眠そうでもない。お風呂をほんの30分遅くしたところで、何か問題あるだろうか。
パパが息子を抱っこする。おくるみの上に、更にひざ掛けを巻き付ける。
寒さは問題ないだろう。よし、3人で、行こう!
普段とはちがう、20分間。
不思議な月を眺めながら。月の光に親子3人照らされて。
星空を見たり、星の歌を歌ったり。
皆既月食の仕組みを教えてもらったり、写真を撮ったり。
時間に追われ、子どもの眠気に急かされるいつもとは、ぜんぜんちがった。
ゆったりと、影が変化していくのを見守った。
ああ、そうか。こんな時間こそが子育てなのか。
子を抱き、家族で寄り添い、月を見上げた夜。
ちっとも寒くなかった。家族のあたたかさを知った。