手をつないで、踊り明かそう

ポルカダイアリー

道の先から何が駆けてきても

陽が長くなった。時候の挨拶のようだが事実だ。近頃は夕方でもあたたかい。子と夕方の散歩に出ることにした。

うまくいけば、午後は昼食→お昼寝→おやつ→散歩、というスケジュールになる。これまでは家の中で過ごしていたが、歩くようになった息子は家の広さに不満を感じるようだ。ぐずっているから眠いのか、と思っていてもいざ靴を履かせて外に立たせてみるとふらふらせずとっとこ走りだしたりする。

親としてはちょっとそこまででいいよと考えていても、彼は家の前の駐車場だけで満足するなんてことはなくすぐ道へ踏み出していく。

 

彼には見えない境界などない。

いわゆるオープン外構で守られたよそさまのお宅にナチュラルに侵入しようとして、吸い込まれるように道を逸れていく。抱っこで軌道修正を繰り返しながら、家3軒ほどの外周を散歩するのに1時間ほどかかる。

小石は口に入れるし、溝には落ちそうになるし、車が来ても棒立ちだし、チャリンコ爆走族の小学生男子に絡まれそうになるし、水たまりに向かって歩くのが生まれた時からの僕の使命だとでも言いたげにまっすぐ向かっていくし。

1歳2ヶ月からはひとときも目が離せず、それはもう家の中に居てほしいというのが本音なのだが、引き換えにとんでもないメリットを享受してしまった。

早く寝るようになったのである。

 

いや、偶然かもしれない。でも今のところ、夕方にたっぷりお散歩した昨日今日と2日連続で、寝た。

22時頃まで寝ない、夜中に頻繁に起きる、寝ない子であるところのうちの子が寝たのである。

ミルクも飲まずに寝てしまうため今度は夜中に起きてしまうという新たな問題も生じているが、それはそれとして、散歩一つでこんなにも如実に生活習慣が変わるか…という驚きの方が勝っている。

明日は雨予報であるが、散歩に行けない日はどうなるのだろう。何かあればこうできる!という条件が増えるたび、それが無いことをおそれる気持ちが増えていく。

 

ところで、今日は散歩中に犬に遭遇した。

散歩中のつながれた犬ではない。リードを引きずった脱走犬だ。

親子3人で歩いていると、10mほど向こうの道の先から、とっても大きな犬が門を飛び出しこちらに元気に走ってくるのが見えた。しかも2頭!

咄嗟に、夫に子どもを高く抱えるよう指示を出した。あっという間に犬がやってくる。身がこわばったが、幸いにして犬は立ち止まらず、横を駆け抜けていったからよかった。

飼い主があとから追いかけていく。しっかりと手綱を持つのを見届けるまで警戒が止まらぬ、肝の冷える出来事であった。

もしも自分と子どもだけだったら。もしも犬が子どもに飛び掛かっていたら。もしも子どもを抱えた自分が押し倒されたら。もしも犬に背を向けていてすぐに気付かなかったら。もしも離れたところから見守っていて、子どものところに駆け付けるのが間に合わなかったら。

たくさんの最悪が頭をよぎり、ぞっとした。心底、何もなくて本当によかった。

後で訊くと、夫は子どもを抱きかかえながら、犬を蹴るシミュレーションをしていたらしい。なるほど、戦うという発想は自分にはなかった。

 

外は危険がいっぱいである。それでも子は、広い世界を知ってしまった。

ならば守るまでである。目を配り身を挺して、わたしは我が子の道を拓く。

あなたが行きたいところへ行けるように。何にも脅かされないように。母は守りのプロになる。